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日本

デジタルカメラ分野 商品企画担当

カメラでなければ撮れない写真
その喜びを、一人でも多くの人に

スマホの登場で縮む市場をいかにして生き抜くか

カメラでしか体感できない写真の“深さ”を伝える仕事を

欧州駐在の経験から得た「ナビゲーター」という天職

X-T1が発売されたのが2014年2月。その直前、彼は担当地域である欧州に赴いて販売活動を展開した。相手は大手小売りチェーンから地方のカメラ店までさまざま。1日に2~3拠点を訪問し、2週間で訪問した国々はフランス、スペイン、イタリア、イギリス、ドイツと5カ国にのぼった。彼は現地法人の担当者とともに、ミラーレスカメラが今後のデジタルカメラのトレンドになることを熱心に説いた。X-T1の機能特性もわかりやすく説明した。そして何より彼は情熱を持って伝えた、X-T1には富士フイルム80年の技術の粋が詰まっていることを。
程なくしてX-T1は日本で、世界で、生産が追いつかないほどの注文を集め、それまでのXシリーズ史上最大のヒット商品となった。同時に、欧州での彼の熱意と行動は、本社にいる上司の耳にも届いていた。帰国後すぐに、彼は欧州の現地担当者として長期にわたる駐在を命じられる。入社4年目での大抜てきだ。
「僕は一言で言って斜に構えた性格(笑)。簡単に人を尊敬したり、憧れたりするタイプじゃありません。そんな僕でも素直に尊敬できると言えるのが当時の直属の上司でした。単に頭の回転が速い、というだけではない。考えながら、スピード感をもって常に行動する。そして高いプロ意識をもって“現地・現物”を一番に考え、部下や同僚、お客さまと接する。この欧州駐在の任務は、尊敬する上司からの強い期待と受け止めました。うれしかったですね」
こうして彼は、2014年から2017年までの3年間、欧州本部のあるドイツ・デュッセルドルフを拠点に働くことになった。そこでのミッションは大きくふたつあった。ひとつは日本の本社と現地法人の仲介役。新しい販売戦略について説明してまわることから輸出手続きの確認、欧州各国のセールス担当者と小売店を訪問し、新製品のプレゼンテーションも行った。もうひとつは、現地法人の経営サポート。売上数値などを細かくチェックしながら、円滑な経営のためのさまざまな施策を、現地スタッフらとともに練り、試みた。
「嫌なことは一晩寝れば忘れてしまう性格の僕ですが、あの3年間がまったくつらくなかったといえば、嘘になりますね。現場での実績はほとんどない上、経験豊かな現地スタッフが従ってくれる役職でもない。自分には何ができるんだろう、という不安に襲われたことも数え切れないくらいありました」
そんな日々の中で試行錯誤しながら導き出した自分なりの目標が、“ナビゲーター”の役割を果たすことだった。
「研究開発者のような専門知識を有しているわけでも、セールスのプロのような現場スキルを持っているわけでもない。そんな僕が、ほかの人に比べて勝っている点がもしあるとすれば、いろんな立場の人々をつなげるコミュニケーション能力。小学6年生で突然アメリカの学校に転校になったとき、僕はすべての友達とフラットにコミュニケーションを取ることで溶け込もうと努力しましたし、社会人になってからも、相手が納得感をもって行動できるように言葉を慎重に選んで対話することを心がけてきました。さまざまな人々をつなげ、共通の方向に動き出すきっかけを作るナビゲーターとしての能力をさらに磨き、発揮することが、僕がすべき仕事だと考えるようになったんです」
どんな組織にも、考えや価値観が異なる人がいて、利害関係の衝突は絶えず発生する。国籍や文化が異なればなおさら、たくさんの人がいろんな思いを持って働いている。こうした状況で自分の立場で担える役割は、常に全体最適を目指し、気配りを大切にしながら関係者をまとめあげる人間だ――彼はそう確信するようになっていった。
また、現地スタッフの真の姿を知ることができたのも、その後の大きなプラスになったと彼は言う。「例えば日本の本社から、“今月の目標までもう一息だ、頑張ってくれ”というメールが送られる。その一通だけで現地スタッフは、一台でも多く売るために奔走してくれるんです。週末や休日も、必要であればワークショップやイベントに足を運んで接客したりと、懸命に働いてくれる。オンオフの切り替えがドライな欧州人が、ですよ。こうした現実は、日本にいたときにはまるで見えなかった。彼らもプライドを賭けて仕事に取り組んでいる。その思いを十分にわかったうえで、一人ひとりと向き合わなければいけないことを痛感しました」。
こうして、現地スタッフとお互いが納得するまで幾日も粘り強く議論したり、彼らの言い分を本社に理解してもらうべく、あらゆるつてをたどって本部と交渉したりと、徹底的に労を惜しまず手足を動かして仕事をするスタイルを、彼は身に付けていった。それはまさに、デジタルカメラのビジネスに抱いている熱い思いを、国境を超えて多くの仲間と共有していく過程そのものだった。
「毎日必死でもがいているうちに、『お前がそこまでいうなら一緒にやってみよう』と協力してくれる現地スタッフが現れ始めました。“見ていてくれたんだ”とすごくうれしかったですね。自分たちが誇りを持っているカメラを一人でも多くのお客さまに届けたい――全員が同じ情熱を持ち、組織として少しずつ前進していくのを実感しました」

地道な努力の積み重ねがモノづくりを成功に導く

  • * インタビュー内容などは、2017年10月時点の取材内容に基づきます。